お役立ちコラム

世界初の脳腫瘍ウイルス療法が承認されたようです。東京大学発のアカデミア主導で創薬を成功させる道筋を示したモデルケース

2022/01/12

本日は、ウイルスを使ってがんを治療する「ウイルス療法」についてです。
「ウイルス療法」では、がん細胞だけでウイルスが増殖し、がん細胞を死滅させることができるそうです。
ウイルスをがんに注射することでがん細胞のみに感染・増殖していき、がん細胞を次々破壊することができるそうです。
破壊されたがん細胞からの分泌物質を患者さんの免疫細胞が認識し、残っているがん細胞を攻撃します。がんへの免疫がつくことで、転移や再発を抑える可能性も期待されています。
正常な細胞ではウイルスは増殖しないので、正常な細胞が傷つくことはようなので安心ですね。
臨床試験ではウイルス療法で治療した方の1年後の生存率が8~9割となり、従来の治療方法(手術、放射線治療、抗がん剤の組み合わせ治療)の約6倍の生存率となったそうです。
すい臓がんや食道がん、ぼうこうがんなど様々ながんを対象に企業や大学によって研究が行われており、現在研究対象とされているがん以外に対する効果も期待されています。

がんがウイルスに弱いことは研究者の間で古くから知られていたことで、1971年には悪性リンパ腫になった少年が麻疹ウイルスに感染したところ、がんが消えたという報告もあったそうです。しかし、ウイルスをがん治療に使おうとすると、正常な細胞に対してもウイルスが増殖・破壊をしてしまうという課題がありました。
遺伝子組み換えでウイルスの性質を変えてがん細胞だけで増殖するようにしたことで、がんの新たな治療法として利用できるようになりました。
がん細胞からがん細胞に血液を介さず移るので、治療のためのウイルスが抗体によって免疫作用で壊されてしまうこともありません。

実際に、ウイルス療法の新薬「テセルパツレブ」(第一三共)が6月に悪性の脳腫瘍を対象に承認されました。
2015年から東大医科学研究所附属病院で医師主導のもと治験を行っており、今後7年間新薬を投与した患者全てのデータを集めて、有効性や安全性の再確認を行うという条件付きで認可されました。今回の新薬「テセルパツレブ」は米国で2015年に既に承認されているウイルス療法薬と比較して、がんを攻撃する力が格段に強まっただけでなく、安全性も向上したそうです。

新型コロナウイルス感染症の拡大とそれに伴う様々な制限により、ウイルスは敵だと捉えてしまいがちですが、がん治療という視点ではウイルスは人間の見方になるということを知り、面白いと思いました。研究がさらに進み、がんで苦しむ方、亡くなる方が一人でも減ることを期待したいと思います。

第一三共㈱のプレスリリース がん治療用ウイルスG47Δ製品「デリタクト®注」新発売のお知らせ

東京大学のプラスリリース資料 世界初の脳腫瘍ウイルス療法が承認~東大発のアカデミア主導創薬で新しいがん治療モダリティ実用化~